その晩。
ココは、逝った。
予想していた発作もなく、病状が悪化するもなく、ただあっけなく逝った。
今ココの家族が見ているココは、とても優しい綺麗な顔で寝ていた。
二度と覚めない眠りだった。
「…………………」
涙も出なかった。あっけなさすぎて。
まだもう少し生きてられると思ったのに。
「……綺麗なお墓を作ってあげよう。せめて、安らかに眠れるように」
父親のアルスが言う。
そうだ。誰にも恥じないような、綺麗で立派なお墓をココちゃんにあげるんだ。
でも、でも。
もう、「ありがとう」の声すら聞けない。
目の前の少女は、まだ確かに生きていそうなのに。優しい寝顔なのに。
「……行きましょう」
セフィアが消えそうな声で呟く。
棺を持ち上げた、その時だった。
急に、真っ黒なローブに身を包んだ少年が現れ、棺の横に立った。
その手には、巨大な白銀の鎌が握られていた。
―死神。

「やっほーって、あれ?ちょっと来るの早かったかな?墓に入った後に魂取るつもりだったんだけど…」
その少年は禍々しい容姿からは考えられないような、無邪気な声で喋る。
三人は驚いて死神を見る。
ポポも、死んだらお墓に入った後に死神が魂を取りに来ると聞いたことがあるが、まさか本当にいるとは思っていなかったのだ。まして、こんな子供みたいな口調など。
でも、とポポは思った。
死を、ある意味での命を司る死神だ。もしかしたら、なにか、なにかあるかもしれない。
「あ…あのっ」
「ん?なんだい?」
少年は、ポポを見下ろすようにして見る。とても死神とは思えない顔だ。
だからポポは、怯えることなく言った。
「ココちゃんを…ココちゃんを生き返らせる方法はないんですか!?」
「ポポ、何を言ってるの!?」
セフィアがポポの肩を強く掴む。それでも、ポポは真っ直ぐ少年を見ていた。
「ん?そんなこと?方法ならあるよ」
「ちょっ、死神様!?」
「えっ、本当ですか!?どうすればココちゃんが…ココちゃんが生き返るんですか!?」
母親と父親が止めるのも無視して、ポポは少年に食いついていく。
少年は、少しためらうような表情で答えた。



「簡単なことだ。君の命をくれればいい」




「え…………」
ポポは呆然となった。
確かに、命を蘇らせるのだ。生半可なモノでは駄目だとは思っていた。
だけどまさか、私の命と交換だなんて。
「やめてください、死神様!殺すんなら僕を!僕の命を使って下さい!」
「あなたやめて!あなたまでいなくなったら私……寂しすぎるわ……」
「じゃあどうするんだ!僕が死んだら君が悲しむ…君が死んだら僕が悲しむ…ポポが死ねば、ココが生き返ったとしてもココが悲しむだろう…このままだとみんな悲しい。どうすればいいんだ!」
アルスはしゃがみこんで頭を抱えた。セフィアは、夫を抱きしめる。
ポポは、ただ少年を見つめて立ち尽くしていた。
「さあ、どうする? お嬢ちゃん」
「あ…」
怖い。
怖い。
怖い。
少年が、白銀の鎌をたずさえて目の前に立つ。
瞳が、赤く黒くポポを見下ろす。
「運命ってのは決まっててね。いわゆる予定みたいなもんなんだ。でも最後は結局、みんな死んで終わり。
だから、人を蘇らせようと思うんなら、それ相応の命が必要だ。君の命を与えてこの少女を蘇らせた場合は、今から君が生きてくはずだった未来がこの少女に与えられる」
少年は淡々と説明した。
ポポは、何故かよくわかった気がした。
でも。
「いやだよ…ココちゃんが死んじゃうのは嫌だけど、私が死ぬのもいやだよ…」
怖い。
怖い。
怖い。
「あっそ。まあいいけどね。今ちょうど真夜中だから、明日太陽が一番高い所に昇るまで、つまり真昼だな。それまでなら待てるよ」
そう言うと、少年はふわっと舞い上がった。
「墓作るんだろ?墓ができたら、そこで俺を呼べ。返事聞くから」
「待って!待って、死神様!」
「いい答えを待ってるよ」
そして、消えた。
ポポは、電池の抜けたロボットのように崩れ落ちた。
選択肢は、二つしかない。
私が死ぬ代わりにココちゃんが生き返るか、私が生き続ける代わりにココちゃんが死ぬか。
どっちを取っても、辛い選択。
こうゆうのを、究極の選択というのだろうか。
「ココちゃん………」
ココを見る。
動かない。
「ココちゃんなら、どうするの?」
もう語り合えないココに、問いかけていた。






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